Weekly digest
子どもを守る指導と体制、そして教科書を選ぶ責任 — 2026 年 6 月第 2 週の論点
栃木県の事件を受けて文科省が夏休み前までの闇バイトの危険性周知を全国の教育委員会等に求め、愛知県みよし市は全小中学校への養護教諭追加配置という人員を伴う子どもの安全体制を打ち出し、デジタル教科書を正式な教科書とする改正学校教育法が成立した週でした。子どもを守る日頃の指導、人員に裏打ちされた体制、紙とデジタルの良さを把握して選ぶ採択の責任 — 制度が動いたあとを現場の判断が支える構図が浮かび上がります。
「使い捨て」の構造から子どもを守る日頃からの指導 — 闇バイト加担防止の文科省通知
生徒に対する犯罪実行者募集情報等を通じた犯罪行為への加担防止のための広報啓発資料の活用等について(通知)
トクリュウや闇バイトから中高生を守るため積極的な啓発活動を 文科省が通知を発出
文部科学省は6月5日、中高生らが「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の闇バイトに応募し、凶悪犯罪に加担するのを防ぐため、全国の教育委員会等に広報啓発資料の積極的な活用を求める通知を発出した。 背景には、高校生による […]
闇バイトの危険性を周知、文科省らが中高生へメッセージ
文部科学省は2026年6月5日、警察庁を中心にこども家庭庁とも連携し、闇バイトの危険性を伝える中高生向け広報啓発用メッセージを公表した。「闇バイトで人生を棒に振らないために知っておくべき5つのこと」を掲げ、子供たちへ闇バイトに手を出さないよう訴えている。
文部科学省は 6 月 5 日、中高生が「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の闇バイトを通じて凶悪な犯罪に加担するのを防ぐため、警察庁・こども家庭庁と連名の啓発資料の活用を求める通知を全国の教育委員会等に発出しました。長期休暇中のトラブルを見据え、夏休み前 に学校集会や 1 人 1 台端末などを通じてできるだけ多くの生徒に危険性を周知するよう求めています。
啓発資料「闇バイトで人生を棒に振らないために知っておくべき 5 つのこと」は、「必ず捕まります」「先輩、友達からの誘いでも応じてはいけません」などの 5 項目を掲げます。警察庁によると、トクリュウによるものとみられる犯罪(資金獲得犯罪)の令和 7 年中の検挙人員は 1 万 2,178 人、うち 少年は 1,322 人 にのぼります。
通知を読んで真っ先に目に留まるのは、冒頭で名指しされた 栃木県の高校生等による強盗殺人等事件 です。警察庁が「緊急に」資料を整え、夏休み前という期限を切って学校現場に届けられた運びからも、この事件が今回の動きに大きく関係していることがうかがえます。
実際、若年層の犯罪の内訳を見ても、通知が何に向き合おうとしているのかが見えてきます。刑法犯少年の検挙人員は令和 7 年に 2 万 4,416 人(前年比 12.2%増) と 4 年連続で増加 しました(警察庁「令和 7 年の犯罪情勢」)。ただしその内実は「少年の自発的な凶悪化」ではなく、犯行グループが SNS や知人の紹介を入り口に、少年を「使い捨て」の実行役として動員する構造です — 「使い捨て」は警察庁自身が事例集の表題に掲げる言葉です(この構造は コラム「日本の少年非行の実像」 — EduEvidence で詳しく整理しています)。通知は、この「動員する大人の側」の手口に対する防波堤と読めます。
では学校にできることは何かと考えると、行き着く先はやはり 日頃の指導 です。集会や端末を通じた周知、警察官を招いた非行防止教室は重要な機会ですが、一度の注意喚起で完結するものではありません。誘いを前に子ども自身が立ち止まり、正しい道を選び取れる判断力を普段から育てること。そして折に触れて繰り返し指導し続けること。通知が求める夏休み前の周知は、その出発点としたいところです。
人員の確保を伴うから機能する、子どもを守る体制 — みよし市が全小中に養護教諭を追加配置
全小中に養護教諭を追加配置 愛知県みよし市教委
愛知県みよし市教委は、子どもを性暴力やいじめから守る体制を強化するため、9月をめどに市内の全小中学校へ養護教諭を追加配置する。関連費用を6月の補正予算案に盛り込んだ。市教委によると、全小中学校への養…
愛知県みよし市教育委員会は、子どもを性暴力やいじめから守る体制を強化するため、9 月をめどに市内の全小中学校(小学校 8 校・中学校 4 校)へ 養護教諭を 1 人ずつ追加配置 します。事業名は「学校あんしんモデル事業」で、6 月補正予算案に 5,251 万円 を計上(みよし市 市長記者会見資料)。市教委によると、全小中学校への養護教諭の加配は 全国初 です。
各校では養護教諭が「安全保護主任」としてチームの中心に立ち、校長・教頭・生徒指導主事・スクールカウンセラーなどとセーフガーディングチームを組織します。参考にしたのは英国の仕組みで、イングランドでは法定ガイダンスにより全ての学校に指定セーフガーディング責任者(DSL)を置くこととされています。みよし市はこれをチーム体制として取り入れた形です。
目を引くのは、体制づくりを 人員の確保とセットで 進めている点です。新しい役割や主任の名称を加えるだけなら既存の教職員の兼務で済ませることもできますが、みよし市は全校への養護教諭の追加配置という実際の人の手当てで裏打ちしました。人員が増えれば、保健室を空けられない・一人で抱え込むといった制約が緩み、児童生徒 一人一人にきめ細かく対応できる 余地が広がります。
事業名に「モデル」と掲げる以上、この取り組みは横展開を見据えたものと読めます。子どもを守る体制を名称ではなく人員で支えるこのアプローチが、全国に広がっていくこと を期待したいところです。
紙とデジタルの良さを把握した採択へ — 改正学校教育法成立でデジタル教科書が正式化
デジタル教科書を正式な教科書に 改正学校教育法が成立
デジタル教科書を正式な教科書とすることを柱とする学校教育法などの改正案が10日の参議院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立した。紙、デジタル、両者を組み合わせたハイブリッド型の3形態の全てを正式な教…
デジタル教科書を正式な教科書と位置づける 改正学校教育法 が 6 月 10 日、参議院本会議で可決・成立しました。紙・デジタル・「紙+デジタル」の 3 形態がいずれも正式な教科書となってデジタルも無償給与の対象に加わり、施行は一部を除き 2027 年 4 月 1 日、次期学習指導要領の改訂に合わせて導入される予定です。
5 月 2 日のダイジェストで衆院通過を追った法案が、成立に至った形です。どの形態の教科書を使うかは、公立学校では 教育委員会等の採択権者 に委ねられます(中教審デジタル教科書推進 WG 審議まとめ)。国は、全てがデジタルの教科書を小学校 4 年生以下では認めず、国語・社会・道徳などでも当面認めない考えを 4 月の衆院文部科学委員会で示しており、今秋にも大臣指針を策定する予定ですが、その枠の中で選ぶのは各教育委員会です。だからこそ、紙とデジタルそれぞれのメリット・デメリットをきちんと把握した上で採択する ことが大事になります。
判断材料はすでにあります。読解では画面より紙が優位であることが 54 研究のメタ分析で確認されており、特に説明文や時間制約のある場面で差が大きいことが知られています(デジタル画面での読解の落とし穴 — EduEvidence)。一方でデジタル教科書の効果は使用条件や教科に強く依存することも整理されています(デジタル教科書 — EduEvidence)。WG 審議まとめ自身も「紙とデジタルそれぞれに良さがあり、それも学習場面や学年などによって異なりうる」と述べており、一律にどちらかへ寄せる話ではないことは制度設計の側も認めています。
正式化はゴールではなく、選ぶ責任が採択の現場に渡されたということでもあります。整備状況や流行ではなく、こうした研究知見と目の前の児童生徒の実態を判断材料に据えた採択が行われるか — 今秋の大臣指針と合わせて、各教育委員会の動きを注視したいところです。