Weekly digest
教員を守り、負担を減らし、教職の魅力を取り戻す — 2026 年 6 月第 1 週の論点
教職員の 6 割超がメンタル不調を経験し要因の 1 位に保護者対応が挙がる中、川崎市は不当要求対応マニュアルという運用基準で教員を守る一歩を踏み出し、山梨県は小学校で完成した 25 人学級の中学校への展開を検討、京都府の教員採用試験では全国の過去最低更新と重なる競争率の低下が明らかになった週でした。教員を守る仕組み、負担を減らす体制、処遇と働きやすさの改善による教職の魅力化と、働く環境の立て直しが志願者の回復と教育の質を支える土台として浮かび上がります。
教員を守る仕組みが運用基準へ — 教職員メンタル調査と川崎市の不当要求対応マニュアル
教職員のメンタルヘルスに関する調査 行政側は「教職員のメンタルヘルスが深刻である」と認識 対策を講じるも教職員の実感にはギャップ
教職員のメンタルヘルス問題が社会的な関心を集めるなか、各自治体・教育委員会ではストレスチェックや相談窓口の設置など、さまざまな対策が講じられている。しかし一方で、施策が現場の教職員にどの程度届いているか、対策の有効性が実 […]
川崎市教委が不当要求対応マニュアル作成
川崎市教委は、保護者・地域からの過剰な苦情や不当要求への対応マニュアルを作成した。原則、面談は1回30分とし、複数人の教職員で対応。早い段階から警察や弁護士などとも連携し、毅然とした対応を進めていく…
アドバンテッジ リスク マネジメントグループの Mediplat は 2026 年 5 月 27 日、教職員 100 人と行政の教職員メンタルヘルス担当者 103 人を対象にした「教職員のメンタルヘルスに関する比較調査」の結果を公表しました。教職員の 62.0% が過去 1 年以内にメンタル不調を経験し、不調要因の 1 位は 「保護者対応のストレス」(70.8%) でした。
川崎市教育委員会 は 2026 年 5 月、保護者・地域からの過剰な苦情や不当要求への対応をまとめた「学校における不当要求行為等対応マニュアル」を策定しました。面談は原則 1 回 30 分・複数人で対応し、不当要求を計 10 パターンに分類、本年度中に通話録音システムの導入も予定しています。
印象に残るのは、川崎市の 踏み込みの具体性 です。保護者対応をめぐっては、第 1 回ダイジェストで文部科学省の事例集「学校と保護者・地域とのより良い関係構築に向けて」を取り上げましたが、あちらは先行自治体の体制を紹介する参考資料でした。川崎市のマニュアルは、面談の時間・人数から不当要求の類型、通話録音まで 現場がそのまま使える運用基準 を市教委自らが定めたもので、そこから一歩踏み込んだ、全国でも先行する形です。
他業種に比べ遅れがちだった学校の カスタマーハラスメント(カスハラ)対策 が、ようやく発展してきたことを示す動きです。Mediplat の調査で教職員の 6 割超がメンタル不調を経験し、不調要因の 1 位に 保護者対応(70.8%) が挙がったことからも、対応が 喫緊の課題 であることがうかがえます。教員を組織で守るこの仕組みが、全国に早急に広がること を望みたいところです。
OECD 最大級の学級規模に切り込む一歩 — 山梨県が公立中の少人数学級を検討
公立中での少人数学級導入検討へ協議会 山梨県教委
山梨県教委は、中学校での少人数教育の推進に向けた検討を始めた。5月下旬、学識経験者や教育関係者らでつくる検討委員会の本年度第1回の会合を開いた。 同県では以前から国に先行して少人数教育に注力し、平…
山梨県教育委員会 は 5 月下旬、中学校での少人数教育の推進に向けた検討委員会の本年度第 1 回会合を開きました。本年度に小学校全学年で 25 人学級 が完成し、その児童が来年度中学校に進学するのを前に、導入効果の検証を踏まえて中学校での体制を議論し、年内にも報告書をまとめる予定です。
山梨県の 25 人学級は、都道府県として全国初 となる 2021 年度に小学校 1 年生から始まりました。日本は 1 学級あたりの人数が小学校 27 人・中学校 32 人と OECD 諸国で最大級(OECD 平均は 21 人・23 人)で、県はその構造に独自に切り込んできた形です(山梨県 少人数教育の推進、OECD 図表でみる教育 2025)。県の効果検証は、発表機会の増加などと並んで 教員の負担軽減 を効果に挙げ、「学級担任の実務的な作業が減った分、児童の支援・指導の時間が確保できるようになっている」と整理しています(令和 4 年度 少人数教育推進検討委員会報告書)。
読み取れるのは、この取り組みの価値が学力だけでは測れないことです。少人数学級をめぐっては、学力向上の費用対効果は低い ことが研究で繰り返し示されてきました(学級規模の縮小 — EduEvidence)。一方で 教員の心理的負担の軽減は確実 と見てよく、負担が減ることで児童生徒への きめ細やかな対応 ができる可能性も高まると考えられます。県の検証が示した「実務が減った分を支援・指導に充てる」という経路は、まさにその表れです。
だからこそ要になるのが、検討委員会が年内にまとめる 報告書の中身と共有 です。学力の数字だけでなく、教員の負担や児童生徒との関わりがどう変わるかまで踏み込んだ検証結果が全国に共有されることに、期待が掛かります。
なりやすさではなく、教職の魅力で志願者を呼び戻す — 京都府の採用倍率低下は全国の縮図
京都府採用試験、中学枠が3・6倍から2・3倍に低下
京都府教委が本年度実施する教員採用選考試験は競争率が昨年度実施分の3・1倍から2・7倍へと低下した。採用人数を1・5倍に増やした中学校枠が3・6倍から2・3倍へと大きく下がった。中学校枠は応募も減っ…
京都府教育委員会 が本年度実施する教員採用選考試験は、全体の競争率が昨年度の 3.1 倍から 2.7 倍 に低下しました。採用人数を 1.5 倍の 180 人に増やした 中学校枠は 3.6 倍 → 2.3 倍 と下がり幅が大きく、応募自体も減少。京都市教委の試験でも全体の競争率が下がり、中学校枠の低下が目立ちました。
この低下は京都に限った動きではありません。全国の最新統計である文部科学省「令和 7 年度(令和 6 年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況等」では、全体の競争率が 2.9 倍と過去最低 を更新し、小学校 2.0 倍・中学校 3.6 倍・高等学校 3.8 倍もいずれも過去最低でした(文科省 調査結果のポイント)。受験者総数は 109,123 人と過去最少、競争率は 68 自治体中 47 で低下しています。文科省が小学校の動向で指摘した「採用者数を大幅に増やしてきた自治体で採用倍率が低下している」という構図は、採用を 1.5 倍に増やした京都の中学校枠にもそのまま重なります。
全国的な志願倍率の低下がこれほど顕著になった以上、問われているのは志願者そのものをどう増やすかです。ただし、その答えを 教員に「なりやすくする」ことに求めるべきではありません。小学校の全国倍率 2.0 倍は、すでに受験者の 2 人に 1 人が採用される水準です。入口のハードルを下げて数を確保すれば、選抜が機能しなくなり、教員の質の低下 につながりかねません。必要なのは、教職員の処遇改善 と 働きやすさの向上 を進めて 教職を魅力的な職業にする ことで、志願者の母数そのものを回復させることです。文科省も今回の調査を踏まえ、教師が「働きがい」と「働きやすさ」を共に実感できる環境整備(学校における働き方改革の更なる加速化、中学校 35 人学級など)を今後の対応に掲げています。入口を緩めて数を合わせるのではなく、職の魅力を高めて志願者を呼び戻す。その王道となる処遇と環境の改善が、着実に進むことを望みたいところです。